公益財団法人 東京経済研究センター

TCERコンファレンス事業について

TCER コンファレンス事業(旧逗子コンファレンス)について

TCERコンファレンス(旧逗子コンファレンス)は、半世紀前から経済学者に加えて政策担当者・実務家を招いて、その時々の日本経済のホットイシューを議論してきたコンファレンス・シリーズである。旧逗子コンファレンスの成果の多くは書籍として刊行され、最新の経済学研究の成果を日本語で、官民エコノミストや学生にもアクセスしやすい形で提供するという点において重要な役割を果たしてきた。我が国の経済政策論議に大きなインパクトを与えた例も数多く、日本の社会経済一般にも広く貢献してきた。コンファレンスの成果の書籍出版はしばらく途絶えていたが、2013年度より二年計画で共同研究を行って商業出版へとつなげていく試みが再開されている。


2021年度・2022年度 「金融の『大転換』と日本の金融システムの未来」

フィンテックやAIのもたらす資産運用、融資、決済など多岐にわたる金融技術革新により世界的な大転換 great transformationを迎えつつある金融業の未来と、それが本格的な高齢化・人口減少社会に突入した日本における金融業・金融システムに与える影響について研究することを目指した共同研究プロジェクトである。本プロジェクトは、決済システム、銀行業、資産市場、企業統治、それぞれの近年の変貌と、資本のミスアロケーションがマクロ経済に与えてきた影響など近年の金融的課題を網羅している。

数回にわたる準備会合を経て、本プロジェクトの成果は11本の論文としてまとめられ、それぞれに対する討論論文と合わせて2022年7月の公開コンファレンスで報告された後、祝迫得夫編「日本の金融システム: ポスト世界金融危機の新しい挑戦とリスク」として、2023年9月に東京大学出版会から刊行されている。同書の英語版の出版も企画されており、また2024年2月にはコーポレートガバナンスと企業のESG活動に関する章に基づいた、一般向けのコンファレンスを一橋大学政策フォーラムとして開催する予定である。


2017年度・2018年度 「EBPMの経済学:エビデンスに基づく政策立案の展望」

証拠に基づく政策立案(Evidence Based Policy Making)への関心が、国内外で高まっている。EBPMとは政策立案のプロセスを体系化しようとする試みである。具体的には、政策課題を見つけ、それに対する政策オプションを比較考量することを通じて、課題解決につなげる一連のプロセスを指している。EBPMを通じて政策形成における透明性と説明責任を高めると共に、実効性のある政策評価に結び付けることが目標である。もちろん政策決定は政治プロセスの中で行われるものであり、EBPMの過程で得られる知見が正しく活用されることが必ずしも保証されるわけではない。しかし着実に蓄積・進展が進む経済は会の裁量の知見を活かさぬまま、「エピソードベース」で事実が踏みにじられたり、あるいは政策判断が故意に歪まされたりすることが続くのであれば、そこに社会の発展はなく、民主的な政策議論も深化しない。EBPMの取組を通じて、政策立案という分野における「プロフェッション」を確立し、そうした分野での人材を育成することがいよいよ求められているのではないか。
わが国のEBPMの取組は、統計改革の中に位置づけられてきたが、EBPMに資する経済学とは、単なる統計分析やデータ解析を行うだけではない。政策課題を解決する政策ツールは何か、そしてその政策ツールがステークホルダーの納得を得て、どのような政策効果を生み出すかという一連のロジックを明確化して、そのロジックに内在する仮説を構築するとともに、検証・評価を通じて再構築するという点にも、経済学の力が発揮されるはずである。

本プロジェクトの成果は、大橋弘編「EBPMの経済学:エビデンスを重視した政策立案」として2020年2月に東京大学出版会から刊行されている。本書は、経済学を専門とする研究者と現役の政策立案者が6つの政策分野においてペアとなって執筆をしている点と、各論考の品質を確保するために、本書の執筆に加わっていない現役のEBPM担当の政策立案者2名に匿名の形で「査読」をしてもらった点に特徴がある。


2015年度・2016年度 「環境経済学のフロンティア」

環境経済学は、経済学の中でも比較的新しい研究領域であり、環境経済学を対象とした専門誌がつくられたのは1970年代後半になってからである。日本では、1960年代に深刻化した公害問題に対処するために、種々の対策が導入されていったが、そこで大きな役割を担っていたのは法学・疫学・工学といった研究分野であったように思われる。経済学はどちらかと言えば環境問題を発生させている悪玉とみなされていたように思われる。
しかし、1992年にブラジルのリオで地球環境サミットが開催され、経済的手法を用いた環境対策が提唱されてからは、環境経済学が着目されるようになった。初期には廃棄物問題や資源管理問題に対処するために多くの経済的手法を用いた研究が行われたが、以降も、世界的な気候変動や酸性雨問題、そして生物多様性などといった新しい環境問題に対応するため、環境経済学は量と質の両面において発展を続けてきている。
データ制約などの理由から、従来、環境経済学の主流は理論研究であり、また日本においては国内外の制度の紹介や比較分析に焦点が当てられていた。一方、現在では、他の経済学の領域と同様に、多くの実証研究や実験研究が行われるようになっている。しかし、その成果は国内の大学教育にはまだ充分に活かされているとはいえないかもしれない。また、国内の環境政策の議論・検討においても、実証・実験研究に基づく成果は充分には活かされているとは言い難く、ようやくスタートラインに立った状態であるといえよう。
本プロジェクトは、近年急速に広まりつつある実証・実験研究を中心に、理論研究も含めた環境経済学の最先端の研究を紹介することを目的として実施された。また、日本の環境政策の担当者にも政策立案における新たな視点(データ分析に基づいたエビデンスベースの政策立案の視点)を提供できることも目的の一つである。

本プロジェクトの成果は、有村俊秀・片山東・松本茂 編著「環境経済学のフロンティア」として、2017年9月に日本評論社から刊行されている.


2013年度・2014年度 「国際経済学のフロンティア」

国際貿易の増加、企業の海外進出やアウトソーシングの活発化など、経済のグローバル化がますます進行する中で、国際貿易論を中心とした国際経済学の分析対象は拡大している。特に、2000 年代に入ってから企業の異質性と貿易や直接投資の関係に着目したいわゆる「新新貿易理論」を代表として、新しい理論的な成果が生み出されており、また同時に理論研究に追随ないし先行する形で多くの実証研究の成果が積み上げられてきている。新しい理論が生み出される一方で、リカードモデルやヘクシャーオリーンモデルといった伝統的な貿易理論も現実経済を論じるツールとして引き続き重要である。
政策面に目を向けると、WTOにおける多角的交渉が頓挫する中で、自由貿易協定(FTA)や二国間投資協定(BIT)などを通じた特恵的な国際貿易や直接投資の自由化が進んでいる。一方で、アンチダンピングやセーフガードなどの保護貿易措置の発動は依然として多く、貿易や投資の自由化の推進力と抵抗力が摩擦を生じさせている。グローバル化の影響をより適切に理解するツールとして、またより良い政策を立案するための基盤として、国際経済学による分析の役割は大きくなる一方であるが、最新の研究成果から得られた知見が、広く社会一般に十分にフィードバックされているとは言えない。本プロジェクトの目的は、国際経済学の最新の理論的・実証的な研究成果を踏まえつつ、経済のグローバル化の影響と貿易政策を初めとした対外政策の影響を整理することによって、最新の研究成果が、現実の経済、特に日本経済のあり方・政策運営に対してどのような含意を持っているかを、広く伝えることである。

本プロジェクトの成果は、木村福成・椋寛編著「国際経済学のフロンティア:グローバリゼーションの拡大と対外経済政策」として、2016年9月に東京大学出版会から刊行されている.著者たちによる、紹介サイトも充実している。


TCERコンファレンス(旧・逗子コンファレンス)年表

第1回 「戦後日本の経済成長」 (1963年1月)
第2回 「日本の財政金融」 (1964年1月)
第3回 「経済成長一理論と計測」 (1965年1月)
第4回 「経済成長と資源配分」 (1966年1月)
第5回 「経済成長理論の展望と課題」 (1967年1月)
第6回 「日本の産業構造と産業間題」 (1968年1月)
第7回 「日本の金融」 (1969年1月)
第8回 「日本の貿易」 (1970年1月)
第9回 「日本経済の計量分析」 (1971年1月)
第10回 「日本のインフレーション」 (1972年3月)
第11回  「会共経済学の諸間題」 (1973年3月)
第12回 「公共経済の諸問題」 (1974年3月)
第13回 「国際経済の諸間題」 (1975年3月)
第14回 「経済学の基本間題」 (1976年3月)
第15回 「経済学の基本問題」 (1977年3月)
第16回 「経済政策の基本問題」 (1978年3月)
第17回 「経済政策の基本問題」 (1979年3月)
第18回 「経済政策の基本問題」 (1980年3月)
第19回 「経済政策の基本問題」 (1981年3月)
第20回 「制度の経済分析」 (1982年3月)
第21回 「戦後日本の産業政策」 (1983年4月)
第22回 「戦後日本の産業政策」 (1984年1月)
第23回 「日本のマクロ経済分析」 (1985年4月)
第24回 「日本のマクロ経済分析」 (1986年3月)
第25回 「応用ミクロ経済学」 (1987年3月)
第26回 「市場的選択と公共的選択」 (1988年4月)
第27回 「市場的選択と公共的選択」 (1989年4月)
第28回 「日本の流通」 (1990年3月)
第29回 「日本の金融」 (1991年3月)
第30回 「日本の所得と資産の分配」 (1992年3月)
第31回 「日本の所得と資産の分配」 (1993年3月)
第32回 「日本の企業システム」 (1994年3月)
第33回 「日本の企業システム」 (1995年3月)
第34回 「マクロ経済学と90年代の日本経済」 (1996年3月)
第35回 「企業と取引の法と経済学」 (1997年3月)
第36回 「企業と取引の法と経済学」 (1998年3月)
第37回 「環境の経済分析」 (1999年9月)
第38回 「複雑系の経済分析」 (2000年11月)
第39回 「日本経済の景気循環」 (2002年2月)
第40回 「望ましい為替相場制度と国際間の資本移動規制のあり方」
(2002年7月・2003年3月)

第41回 「望ましい為替相場制度と国際間の資本移動規制のあり方」 (2003年8月・2004年3月)
第42回 「市場と法の経済分析」 (2005年4月)
第43回 「市場と法の経済分析」 (2006年4月)
第44回 「統合の政治経済学」 (2008年5月)
第45回 「統合の政治経済学」 (2009年3月)
第46回 「制度・組織と経済発展」 (2010年1月)
第47回 「制度・組織と経済発展」 (2011年1月)
第48回 「人的資本の早期形成と経済格差の世代間継承」 (2011年6月)
第49回 「日本企業の組織改革とパフォーマンス:企業パネルデータによる分析」        (2012年3月)
第50回 「女性労働と人的資本形成」 (2012年3月)
第51回  ”Frontier of Market Design” (2013年3月)
(Western Economic Association International,
Pacific Rim Conferenceの特別セッションとして開催)
第52回 「国際経済学のフロンティア」 (2013年12月)
第53回 「国際経済学のフロンティア」 (2014年8月)
第54回  「環境経済学のフロンティア」                (2016年3月)
第55回  「環境経済学のフロンティア」                (2016年7月)